265 ボロボロになった辞書・知人から聞いた話

中学校は、数日しか行ってない。
勉強ってものをしてこなかったから、
漢字を知らない。書けない。

このままだらだらしているわけには
いかないと思っていたところで、
見かけたよくいくコンビニでのアルバイト募集の文字。

履歴書は、友人に書いてもらった。

店長らしき人による面接。



  君は、よくダブルクリームエクレア買ってくれてる人だよなあ。


  はい。あれうまいっす。


  ありがとうな。今日からできるか?


  はい。


ダブルクリームエクレアのおかげで、
あれこれ聞かれることもなく、採用。

しかし、すぐに問題が発生。

お客さんから、領収書をくださいと頼まれる。

でも、漢字が書けない。

他の人に書いてもらうように頼むしかなかった。

あいつは漢字も書けないと、
後ろ指を指される気がして、
頼むのがいやだったが、
ムリして笑って、明るくお願いする。

これが、何回かあって、
実際、一緒に働いている人たちの間では、
自分が漢字が書けないということが知れ渡る。

休憩時間、控え室に戻って、
恥ずかしさやら腹立たしさやら、
沸き上がってくる感情を
一人でぐっとこらえていた。

おれは字も書けないのに、
ここにいていいのだろうか?
やっぱりおれにはムリなのか?
やめたほうがいいんじゃないか?

頭の中をかけめぐる、
様々な考え。

ふっと、顔を上げてみると、
テーブルの上に、国語辞典が目に入った。
しかも、小学生向け。

あ、これで漢字を調べられる!

それから、バイトのあとに
漢字の練習をはじめた。

店長は、その様子を見て、
早く帰れとも言わずに、
放っといてくれた。

あるとき、言われたひとこと。

がんばってんね。
あと、意味の分からない言葉も調べて、
意味を分かるようにするんだよ。

それからは、言葉の意味を調べるようになった。

意味が分かると、
文章の意味がわかる。

いままでその存在すら気が付かなかった、
いろんな書類、マニュアル、
仕事をすすめていくのに必要なもの。

漢字が読めて、言葉の意味がわかりはじめたら、
まず、その存在に気がついた。
なんだろうと見てみると、それが読める。
読んで、実際にやってみる。
なんのためにその作業をやっているのか、
店はどのように動いているのか、
お金の流れはどうなっているのかが
分かって、見えるようになる。





ある日、店長に呼ばれて手渡された
つかいまくってボロボロになった辞書。

がんばったな。
これは君にあげるよ。
ここで、やってきたこと、
忘れんなよ。

もう一軒コンビニやろうと思ってんだけど、
君、店長やってみないか?





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