負かされる日が来るのは、楽しみだ。

いきなり角をとられた。

なんか、新しい手を覚えてきたようだ。
やばい、負ける。

しかし、ここで私が負けて、
彼の向上心を満足させてしまうわけにはいかない。




小学校3年生の息子が久しぶりに将棋しようと、
言ってきた。

前は、わたしが飛車と角をなしにして、
ハンデをつけてやっていた。
いつだったか、それだと私が必ず負けるくらいまで
上達した。

それで、ハンデなしの対等の勝負。
まだ息子は一度も私に勝ったことはないが、
先を読むことを覚え、
相手をひっかけることを覚え、
油断ができない相手になってきている。


昔、わたしが、今の息子くらいの年齢のころ、
将棋をやりかけた。

ある程度、将棋を分かっている人との勝負では、
必ず負ける。

どうやったら、勝てるようになれるのかが、
分からず興味を失った。

将棋はよく分からないまま、三十年たって、
息子がやりたいと言ってくるので、
相手をするようになった。

私の将棋は初心者レベル。

息子にとっては、強いんだろうけど、
勝てる見込みがまったくないわけではない
と感じられるレベル。

息子がいろいろ技を仕入れてきて、
仕掛けてくるので、
自分もなるほどそうするのかと、
学ぶことができる。

しかしまだ、相手の注意の行き届かない部分に
すぐに気がつき、そこを突くことができる。
それで、あまり技を知っているわけではないが、
いまのところ、勝負では勝てる。

まだ、甘い部分が目に付く。

この調子だと、それほど遠くない将来、
わたしが負ける日が来る。

その日が来るのは、楽しみだ。

でも、その楽しみはもう少しあとにとっておきたい。


板橋区は金魚に似ている

土曜日に息子達が通っている小学校の学校公開が
あったので行ってきた。

3年生の社会科で、
地元の区、東京都板橋区についての授業。

こどもたちは、ノートに板橋区の形をかき写し、
板橋区になにがあるのか手を挙げて、発表していく。
東武練馬駅、熱帯植物館などなど。

板橋区は、有名な名物があるわけでも、
区を象徴するような観光地があるわけでもない。




こっちに引っ越してくる前、
子どもを連れて区境を越えて
板橋区にある公園まで遊びにきた。

まわりは住宅地だが、崖っぷちに公園があって、
森のようになっていた。

公園の向かいにある階段を登った先に
お寺があった。
石造りの急な階段。
石はすり減って角は丸くなっており、
作られてからの時間を感じさせる。

ものすごく遠くに来てしまったような感覚におそわれる。
でも、実際に移動した距離はわずか。
ここら一帯は他とは大きく違った感じ。

また別の近く公園、案内の標示。


ここで遺跡が発掘された。
以前ここには宗教施設があったと考えられているが、
詳しいことはわかっていない。


板橋の名前の由来にはいろんな説がある。
ひとつ気に入っているのが、板の端だという説。

板橋は台地の端っこ。
台地の端の向こうの低地には荒川が流れる。
板橋は北と南で低地と台地の二つに分かれる。
その境界線の崖っぷちに、
神社やお寺や、数々の遺跡やらが点在する。

おそらく、遺跡に建物が存在した時代、数千年前、
崖の下は海だったのだろう。

遺跡が使われていた当時の風景を
目の前で想像してみる。

眼下に広がる海。

ここの土地の形態と、
千年以上の積み重ねられてきた時間。

この海を見下ろす時間を超えた光景を、
子どもたちにも見せたいのだが、
そのために何が必要か?

まず全体の地形を把握する必要があるよなあ。





学校が終わって帰ってきた息子が話しかけてきた。

板橋区の形って金魚に似ているね。

その言葉に刺激されて、
板橋区で見た海がよみがえってきた。



265 ボロボロになった辞書・知人から聞いた話

中学校は、数日しか行ってない。
勉強ってものをしてこなかったから、
漢字を知らない。書けない。

このままだらだらしているわけには
いかないと思っていたところで、
見かけたよくいくコンビニでのアルバイト募集の文字。

履歴書は、友人に書いてもらった。

店長らしき人による面接。



  君は、よくダブルクリームエクレア買ってくれてる人だよなあ。


  はい。あれうまいっす。


  ありがとうな。今日からできるか?


  はい。


ダブルクリームエクレアのおかげで、
あれこれ聞かれることもなく、採用。

しかし、すぐに問題が発生。

お客さんから、領収書をくださいと頼まれる。

でも、漢字が書けない。

他の人に書いてもらうように頼むしかなかった。

あいつは漢字も書けないと、
後ろ指を指される気がして、
頼むのがいやだったが、
ムリして笑って、明るくお願いする。

これが、何回かあって、
実際、一緒に働いている人たちの間では、
自分が漢字が書けないということが知れ渡る。

休憩時間、控え室に戻って、
恥ずかしさやら腹立たしさやら、
沸き上がってくる感情を
一人でぐっとこらえていた。

おれは字も書けないのに、
ここにいていいのだろうか?
やっぱりおれにはムリなのか?
やめたほうがいいんじゃないか?

頭の中をかけめぐる、
様々な考え。

ふっと、顔を上げてみると、
テーブルの上に、国語辞典が目に入った。
しかも、小学生向け。

あ、これで漢字を調べられる!

それから、バイトのあとに
漢字の練習をはじめた。

店長は、その様子を見て、
早く帰れとも言わずに、
放っといてくれた。

あるとき、言われたひとこと。

がんばってんね。
あと、意味の分からない言葉も調べて、
意味を分かるようにするんだよ。

それからは、言葉の意味を調べるようになった。

意味が分かると、
文章の意味がわかる。

いままでその存在すら気が付かなかった、
いろんな書類、マニュアル、
仕事をすすめていくのに必要なもの。

漢字が読めて、言葉の意味がわかりはじめたら、
まず、その存在に気がついた。
なんだろうと見てみると、それが読める。
読んで、実際にやってみる。
なんのためにその作業をやっているのか、
店はどのように動いているのか、
お金の流れはどうなっているのかが
分かって、見えるようになる。





ある日、店長に呼ばれて手渡された
つかいまくってボロボロになった辞書。

がんばったな。
これは君にあげるよ。
ここで、やってきたこと、
忘れんなよ。

もう一軒コンビニやろうと思ってんだけど、
君、店長やってみないか?





親子で楽しむ学び方 LEARNING HOW TO LEARN


基礎からわかる勉強の技術